食べ物と汽車が好きな人のための書評

名作の中の食べ物、作家が好きな食べ物と旅を追って、本の森を歩こう

中落合 中太郎
(C)Chutaro.Nakaochiai
<< 草津の湯長−今も残る湯治ー草津温泉『北斗の人』司馬遼太郎 | main | 熟年の皆さん。筒井康隆を読んでいましたか?-愛が先か食い気か『霊長類南へ』筒井康隆<角川文庫> >>
超能力新聞記者があふれる日本のマスメディア-『ジャーナリズム崩壊』上杉隆(幻冬舎新書)
<「わかった」記事>
いささか古い例で恐縮だが10月6日付の読売新聞夕刊東京版第4版14面にこのような記事が出た。

福祉割引便乗DM郵送印刷・通販会社「ウィルコ」が神戸市や大阪府吹田市などの障害者団体が発行する定期刊行物に自社の通販商品を宣伝するダイレクトメール(DM)広告を同封して大量に郵送していたことがわかった。
この記事の内容はショッキングな出来事だが、どうしてわかったのかわからない。事件であれば県警の発表によれば、とかあるいは政府の発表であれば麻生総理大臣が語ったところでは、というようにどのようにして「わかった」のか記事からわかるはずである。ところがこの記事ではまるで江原啓之さんか美輪明宏さんばりに突然、天の啓示か透視術でウィルコという会社がやっていることが記者に「わかった」ことになる。

皆さん、新聞だけでなくテレビ、ラジオでも普通に「〜であることがわかりました」という報道を聞いていると思う。しかし、どうしてわかったのだろう、と不思議に思いませんか?最近の例では、「緒方拳さんが10月5日になくなっていたことがわかりました」という報道があった。

福祉割引郵便DM便乗のニュースが読売新聞になぜわかったかといえば、それは10月6日の朝日新聞の朝刊1面および社会面に「郵便の障害者割引悪用」という朝日新聞の上沢博之記者と野村周記者の署名記事が出たからである。ウィルコという通販会社は障害者団体が発行する印刷物には大幅な割引(120円が8円になる)があることに目をつけて、自社のDMを同封して大量発送していた、という記事である。記事の内容から上沢記者らは長期に渡って取材を続け裏づけを取った。朝日新聞のスクープである。

読売は朝日の朝刊を読んで「わかった」ので、それを自社の夕刊に「わかった」と掲載したのであろう。だけどさあ。そんならオレとおんなじジャン。「新聞で読んだんだけどさ。ウィルコがね」と中太郎がカミさんに話しかける。いや、中太郎のほうが読売新聞より品格がある。すくなくともオレは「新聞で読んだんだけど」とソースを不完全ながら明らかにしている。しかも、金はとっていない。読売は朝日の朝刊を読んで、朝日のアの字も書かないで夕刊を売って金もうけしているのだ。同じ新聞記者なら上沢さんや野村さんがどんなに取材で苦労したか想像できるはずだ。「朝日新聞の上沢記者らの取材によると…」と夕刊に書いてあげたっていいじゃないか。お互いスクープを抜いたり抜かれたりだ。同業者として、スクープされた悔しさは悔しさとして、ライバルを讃えったってバチは当たらないぜ。

<欧米ではクレジットを出さないで記事を掲載したら訴訟の対象になる>
上杉隆著『ジャーナリズム崩壊』幻冬舎新書によれば、欧米では「情報源が著しい不利益を被る。生命・身体の危機が及ぶといった理由」がなければ、情報源を隠す事は犯罪的行為だ、ということだ。前の例は新聞対新聞の話だが「わかった」報道の多くは週刊誌メディアからわかることが多いという。そして、もちろん、週刊誌にはひとことの挨拶も無い。
ジャーナリズム崩壊 (幻冬舎新書 う 2-1)
ジャーナリズム崩壊 (幻冬舎新書 う 2-1)
上杉 隆

どんな著作物にも著作権がある。ブログにも子供の作文にも著作権はある。いわんや、記者が地味な取材をして発表した記事は当然著作物として保護される権利がある。著作物で生活しているジャーナリストがそれを知らないはずが無い。なのに他人の著作権を日本のマスコミは大切にしていないのではないか?

アメリカのマスコミはそうではない。自社の記者に対しても記事にその名を記した署名記事がほとんどだという。本書第3章によると、「ニューヨークタイムズはその記事にかかわった代表的記者を1名記す、ワシントンポストは全員記す。30ワード程度のベタ記事のような場合には、ときに記者の氏名とタイトル(肩書き)のほうが本文より長くなってしまうことがある」とのことである。と同時に日本の新聞社の集団主義とアメリカの記者の個人主義の違いがある、と本書は分析している。アメリカでは、「Takashi.Uesugi,New York Times」と名前を先にいう。日本の場合は、「朝日新聞の○○です」あるいは「朝日新聞です」と社名を先に言う。記者個人の名前は隠す傾向がある。
<記者会見で記者を見よう>
東京MXテレビが見られる人は金曜日の午後3時頃から石原都知事の記者会見中継がある。知事の話もおもしろいが質問する記者がどう名乗るか、いい質問か、アホな質問か、素人目にもわかる。MXテレビに頼みたいのはぜひ記者席を写すカメラを置いてほしい。質問する記者がどういう顔で聞いているのか見たい。知事が来たのに全く質問がないときもあった。国政や芸能ネタにも答えられる石原氏に質問が全く無い、ということはないだろう。
福田前総理が「私はあなたとちがいますから…」といったといって揶揄されたが、こんなアホが記者か?と思うような奴もいるのである。ホンマはもっといろいろいいたいんじゃないかな。その点、石原さんは、
「あんたわかって質問してんの。そう聞けっていわれて聞いてんの」
などと記者をイジるから面白いよ。その記者会見を主催する記者クラブが厄介だと上杉氏はいう。
<田中康夫元知事、東国原知事の記者クラブ改革論>
田中康夫長野県知事がかつて、県庁記者クラブを週刊誌や外国メディアにも開放しようとして、とんでもない奴みたいにマスコミからたたかれた。東国原知事も記者クラブ不要論を唱えた。上杉さんの本によると記者クラブは日本の新聞社とテレビ、ラジオ局、通信社にしか参加が許されない。文藝春秋もニューヨークタイムズもAP通信も記者クラブの同意なしには(ほとんど同意しない)記者クラブ主催の会見に出席できないのだ。出席しても質問することはできないオブザーバーとしての出席だ。なのに外国人特派員協会の会見には日本の記者は我が物顔で出席している。それは特派員協会の見識である。外国メディアは記者クラブ改革を訴えてきたが、そういうことは日本のマスコミは報道しないし、もちろん改革もするつもりもない、という。

<アフリカ開発会議(TICAD)の会見からアフリカ人記者をしめだした日本の記者たち>
福田総理が洞爺湖サミットに先立って横浜でアフリカ開発会議(TICAD)を開催しアフリカの記者も多数来日したが彼らは記者クラブに入っていない、という理由で最初、福田総理らの会見に出席できなかったのである。もちろん、フリージャーナリストである上杉氏もである。その後上杉氏らの強い抗議で出席は許された。が、質問はできない。一番が日テレ、2番がエチオピアの記者、三番が共同通信、4番がEUの記者で何を質問するか、そして総理がだれを当てるか、もすべてお膳立てができているというのだ。TICADに限らず、日本の政界、官界ではたとえ政治家本人あるいは役所がOKしても、記者クラブに知られれば、海外のメディアやフリージャーナリストの取材はつぶされる。あの筑紫哲哉氏にしても、TBSニュース23の筑紫としてでやっとインタビューが許されるというのが日本の記者クラブの現状だというのだ。
相撲協会が自己改革できないと批判しているが日本のマスコミは自分たちの実態を海外と比較、報道して問題を討論の場に上げる努力をしているのだろうか?

<署名やクレジットで責任をあきらかにするアメリカメディア>
日本ではNHKでさえ、モザイク付インタビューや声を合成した画面をニュースに使っているが、アメリカではそういうクレジットの無い映像は使えない、そうである。このような国外のジャーナリズムの常識は日本のマスコミが報道するわけも無い。本書によるとかつて、ニクソン政権をささえたヘンリー・キッシンジャー国務長官がベトナム戦争の機密情報をワシントンポストの記者に教えた。条件は彼の名を伏せること。ワシントンポストはニュースソースのクレジットがなければ報道できない。そして、やった。キッシンジャーの名前は伏せた、が彼の肖像写真を記事と共に掲載したのだ。日本のマスコミなら「米国政府高官によれば」とすればすむ。いや、「わかった」でいい。日本の新聞は無署名記事が多いし、ソースも明らかにしないことが多い。わかりやすくいえば匿名の投書と同じだ。日本の記者は見えないところから弾を撃ってくる。朝日夕刊のコラム「素粒子」が当時の鳩山法務大臣を死神と書いて批判を受けたが、いまだに朝日は「素粒子」の記者をあきらかにしていない。
上杉氏は文化放送「吉田照美そこ大事なトコ」やTBSラジオなどのメディアに多く出演している。彼の著書もたくさん紹介されているが新聞書評欄がこの『ジャーナリズム崩壊』を取り上げたのを見たことが無い。上杉さんのこの本に対する新聞の態度を見れば、この本を出したことが日本のマスコミで活動する彼にとっていかに勇気がいったかわかる。

地上デジタルは必要か論議を抹殺する日本のメディア>
今週土曜日のTBSラジオ『久米宏ラジオなんですけど』では、新東京タワーは必要か?を取り上げるそうだ。石原知事も「あんなもんいらん。これだけ有線や衛星があるのに無用だ」といっていた。東京オリンピック誘致を言い出す前まではね。久米さん本当は「地上デジタルは必要か」といいたいんじゃない?
ひな壇にお笑い芸人を集めて楽屋話をさせるか、クイズをしておバカ度を競う程度の番組やニュースと称して食い放題の店やら大食い競争を放送するテレビに膨大な予算をかけて地上デジタルを推進する価値はあるのか。巨人の優勝は放送しない地上波の日テレ。アメリカ大統領候補の討論より大食い競争を報道するニュース。そんなに今のVHFの周波数帯が必要なら地上波なんかやめちまって衛星一本の方が金がかからない。BS、CSどれだけの衛星の局があるだろう。もう一個衛星を上げるほうが安いんじゃない?別に今のテレビなんか見られなくても別段、国民生活に支障はない、というような議論が流れたことあるか?ないよね。それからマスコミ人コメンテーターといわれる人たちがこの問題を提起したこともみたことがない。できるわけないんだ。このことは本書には書かれていないがその理由はこれだと思う。日本テレビ、読売新聞、よみうりテレビ、ラジオ日本、中央公論社である。フジテレビ、産経新聞、ニッポン放送、夕刊フジである。テレビ朝日、朝日新聞、朝日放送、週刊朝日、アエラである。では、これまで。
| 中落合中太郎 | 上杉隆 | 06:17 | comments(2) | - | pookmark |
2010.07.23の朝日新聞(ネット版)で上沢博之記者が公益法人の闇給与をスクープしてました。いい仕事してますね。
| | 2010/07/23 4:45 PM |
1) 今回山路徹・麻木久仁子の不倫・重婚疑惑事件で、大桃は発言が事実なら正に哀れなる一方的被害者である。不倫を隠すための「背徳」の沈黙で離婚させられ、結果家庭からもTVからもシカトされていた。12/23の会見では山路の子分記者から「今さら何が望みか」とかイジメだった。
 同類の小倉智昭・鳥越俊太郎・ピーコなど「夫婦問題は放っとけばいいんだよ!」と明らかに山路・麻木をかばっている。(唯一正しかったのはやはり外部の尾木ママで「偽善者は教育の敵」と発言したのみ) その上12/26の沈静化対策山路会見直後にNTVでクイズ女王にさせたり、NHKでも最近ゲスト出演させている。事件の核心の「結婚時期」も話題にもしないし寄生虫の芸能記者も取材させない。
 結果TV視聴者は局内部常連顔の無関心と、「大桃バッシング」を諒として、自分も大桃と同じ情報関係にいる被害者であることに気づかない。正に恐るべき情報”湯で蛙”現象である!

2) (問題の山路徹ボスニア民族紛争報告の結び「ピアニスト」場面を観た。 http://www.youtube.com/watch?v=-jR1R3CSFqo&feature=related
 当ピアニストは話す英語から地元のレストラン職員でなくインテリの記者であろう。聞き手の英語は稚拙でかみ合ってない。主題atheist, music of people from mountains が落ち、上乗せ音楽と共に脚色されている。ここでも情報弱者の視聴者は商業主義的「電波詐欺師」の犠牲になっている。)
| 憂国 | 2011/01/21 11:41 AM |









1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031    
<< October 2017 >>
+ SELECTED ENTRIES
+ RECENT COMMENTS
  • 超能力新聞記者があふれる日本のマスメディア-『ジャーナリズム崩壊』上杉隆(幻冬舎新書)
    憂国 (01/21)
  • 超能力新聞記者があふれる日本のマスメディア-『ジャーナリズム崩壊』上杉隆(幻冬舎新書)
    (07/23)
  • 北カリフォルニアのミカン畑に行く。<湯葉シティYuba CityのKenzo Sushi>―おふくろ様カルフォルニアご親戚訪問同行記その7
    中落合中太郎 (09/23)
+ CATEGORIES
+ ARCHIVES
+ MOBILE
qrcode
+ LINKS
+ PROFILE