食べ物と汽車が好きな人のための書評

名作の中の食べ物、作家が好きな食べ物と旅を追って、本の森を歩こう

中落合 中太郎
(C)Chutaro.Nakaochiai
昭和46年・昭和天皇ご一家のご会食―『吉兆味ばなし』by湯木貞一 その二
評価:
湯木 貞一
暮しの手帖社
---
(1982-02)

評価:
湯木 貞一
暮しの手帖社
---
(1992-06)

JUGEMテーマ:グルメ

 <皇居での雛の節句の宵>

昭和46年3月。吉兆が御所に出張して昭和天皇ご一家のご会食を担当した。

その模様を湯木貞一さんが語っている。

湯木さんと吉兆のみなさんはしごとに先立って、宮内庁大膳課の秋山さん、というから「天皇の料理番」の秋山徳蔵さんを訪問する。

昭和天皇のお好みを伺った。

お酒はお召し上がりにならない。お刺身も召し上がらない、と思いますよ、と秋山さん。

湯木さんたちは頭を抱えてしまう。

ただ、会食の日が3月3日の雛の節句ということなので、その趣向でできるだけ、お気にいるものを差し上げようということになった。

ご出席は、昭和天皇皇后両陛下、皇太子殿下ご夫妻、高松宮殿下ご夫妻、三笠宮崇仁殿下ご夫妻、秩父宮妃殿下、若宮、姫宮さまなど12客であった。

<お好きでないという刺身をみな召し上がる>

お刺身はひとつでも、召し上がっていただければ、と考え、絵の具皿にイカ、鯛、マグロを数切れずつお出しした。

イカはどこのものか、鯛はどこか、とお尋ねがある。

「これはみな瀬戸内のもので淡路の岩屋から由良の方にかけてとれたものでございます」

刺身のツマに興味を持たれた。

陛下「これ岩茸とちがうかい」

「さようでございます」

陛下「これは大変なものだよ。これは深山の奥にできるもので、これはオスとメスがあるんだ」
(第4巻100ページ)

<吹上の庭のつくしはキジが食べるんだ>

穂の開いていない土筆の穂の先だけを油でさっと揚げて塩をふって、二十粒ぐらいでしたか箸休めに出しました。

陛下「これはなんだい」

湯木「つくしでございます」

陛下「ほう。あの、つくし。そういえば、これはつくしだね」

そしてそのつくしはどこのもの、とおたずねになりましたから、

湯木「房州から相模、伊豆のあたりの日向(ひなた)の山裾にずうっと出ております」

と、ご説明する湯木さん。すると陛下は、それなら御所のある吹上御苑にも土筆がでているはずだ、とお話になる。

陛下「あ、キジだ。キジが食べるんだよ。人が気がつく前に、キジが食べているのだよ」

自然を愛しておられる微笑ましい会話である。


<陛下お辛うございます―タレまぶしご飯を食べられなかった昭和天皇>

さいごに小さな火鉢で牛肉の炭火焼でご飯を楽しまれた。

陛下は牛肉の炭火焼きのタレをご自分の茶碗のご飯にぱっとかけた。

湯木さんはそれをみて、

「陛下。それは辛子でお辛うございます」

と申し上げるが陛下は、

「いいよ。いいよ。こうするとおいしい」

と、茶碗をおはなしにならない。

湯木さん、すぐ台所に走って行って、新しいお茶碗にご飯をよそっって、これとかえてくださるようお願いした。

陛下は「こうするとおいしいんだ」とタレかけご飯をたべたそうにする。

湯木さんが泣きそうになりながら茶碗の交換を懇願する。

「これほど、いうんだから替えてあげてください」と宮様方もいわれ、茶碗を取り替える陛下。

タレかけご飯を食べられなかった昭和天皇がなにやらお気の毒である。


<桜餅は葉っぱをつけて食べるものです>

デザートとして水菓子のほか桜餅をお出しした。高松宮殿下から、

「これはどうするんだい」

とおたずねがあり、湯木さんは、

「それはもう、桜の葉ははずして召し上がっていただきます

と申し上げた。すると、陛下が、

「だって君。この桜の葉は心入れですよ。このまま食べるものですよ」

と、皮なりのまま桜餅を召し上がってしまわれました。


さいごに湯木さんは、貴い方々のお食事というよりなにか学者がたのお集まりのようであった、と語っている。

華やかなひな祭りのお食事を担当できて名誉なことであるけれども、

大仕事を終えた湯木さんのホッというため息が聞こえてくるような一文である。
| 中落合中太郎 | 湯木貞一 | 20:03 | comments(0) | - | pookmark |
吉兆の創業者が語る家庭料理。昭和天皇の思い出―『吉兆味ばなし』by湯木貞一
評価:
湯木 貞一
暮しの手帖社
---
(1982-02)

JUGEMテーマ:グルメ

<料理のポイントがわかるし読み物としてたのしい>

本書は湯木貞一さんが雑誌「暮しの手帖」に『吉兆つれづればなし』として連載したものを4巻にまとめた。

料亭の豪華な料理やお茶事のはなしはもちろん、親子丼や薄揚げ(油揚げ)の焼いたのやら家庭料理のはなしがおもしろい。


大橋鎮子編集長と担当編集者がお店に伺って、「吉兆」創業者で茶人の湯木貞一が語った。

湯木さんの上品な関西アクセントが聞こえてくるような本である。

それもそのはず、本書第4巻のあとがきにこうある。

東銀座の吉兆に伺って湯木さんに原稿を読んでいただきます。

何回も読んでいただき、最後に大橋さんたちが声をたてて読み、

湯木さんはそれを聞いて「おかしい」と思われたところを改めて書き込まれたり消されたりする

 

<親子丼はかしわと卵だけ>

料理の最高と最低ということについて、お話してみようと思います。(第1巻・84ページ)

こんな調子なら、どんな高級料理のはなしかと思うが、親子丼のはなしである。

親子丼の最高といったら、新しい玉子で、かしわももものよい身を使って、

ご飯もお米を吟味して、炊き方もよし、というものでしょう。

ねぎが入れば、最高からちょっと下がってしまいます。

椎茸が入れば、また、下がります。

<吉兆創業者のおしえる家庭の親子丼>

1 鶏肉を買うときはガラも買ってきてガラでスープを取る。

2 だしは ミリン2杯 しょう油1杯 スープ3杯 の割合。

 しょう油はおなじメーカーの濃口と淡口を半々で1杯とする。

3 かしわは丼ひとつに50グラム。玉子は2個。

 玉子1個分の黄身を取りおいて、さいごにうえにのせて月見にするのもいい。

4 ごはんはぜったいあつあつの炊きたてで粘りのあるうちでなければいけない。

5 数が多いからといって一つの鍋で何人分もつくってとりわけるなどもってのほか。


<買ってきた蒲焼の食べ方>

買ってきた蒲焼は、

ごはんが炊きあがって、むらしますね。そうしたら、串ごとごはんの上にならべます。

(中略)

あと5分もむらしたらいいというとき、ごはんの上にならべたらいいわけです。

ごはんが炊きあがったら、まず蒲焼をあたためた皿にとります。(第1巻227ページ)

そのとき串を抜く。タレのうつっているごはんだけ別にとる。

それからあたためた蒲焼に別添のタレをかけていただく。


<吉兆で油揚げを焼かせて食べる>

吉兆のお客様が、

「薄揚げを買うて来てくれ」とおっしゃる。湯木さんは、

薄揚げを四つに切って、こんがり焼いて、大根おろしにしょう油をつけて揚げの上にのせてお出ししたら、

「これがおいしいねん。これがおいしいねん」 と、おっしゃって…。

たしかあのときは大根おろしの上にすだちをしぼりました。(第2巻219ページ)


料理屋でこれをやるには「美味しんぼ」の京極さんや海原雄山くらい貫禄がないとだめでしょう。

家庭でやってみますか。

ただし、関東の油揚げではだめでしょうか。


<納豆がだいすきだが>

湯木さんは関西育ちだが納豆がすき。しかし、食べ方には一家言ある。

納豆がわたしは特別に好きなんです。

納豆はめいめいが、みな自分でこしらえて、そして、

かきたてに、自分で玉子の黄味をいれて、自分のかいたものを食べるのが一番です。(第3巻107ページ・納豆の思い出)

この文は日本人の文章にしては珍しく一人称がたくさんある。

納豆はひとりづつめいめいがつくって食べるものですよ、という作者の強い思い入れです

納豆のゲチスバーグ演説です。


<ごはんをおいしく>

ごはんをおいしく。

という声がきこえる。

食事という意味ではなく、米の飯という意味でのごはんです。

前出の鰻の話や親子丼の話でも湯木さんは、

「あつあつのご飯でなければおいしくありません」と力説している。

第一巻20ページ「春は春らしく」という項で、湯木さんが50人くらいの法事の出仕事を担当した時でした。

大阪の郊外。薪でご飯を炊きました。酒米の火加減に苦労しました。

縁高(小さいお重のようなもの)のふたをとったとき、ご飯から、ぽおっと湯気が上がる、

それが料理人の甲斐性というものです。

ジャーでよかったのに、わざわざ熱つ熱つのご飯まで炊いてもろて、と喜んでいただきました。

料理をするものにとって一番うれしいときです。(第1巻20ページ)

「どんなご馳走もご飯がおいしくなかったら台無しです」がこの本のテーマだと私は思う。

次回は、昭和天皇ご一家がご会食されたときの話を書く。


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| 中落合中太郎 | 湯木貞一 | 18:57 | comments(0) | - | pookmark |
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