食べ物と汽車が好きな人のための書評

名作の中の食べ物、作家が好きな食べ物と旅を追って、本の森を歩こう

中落合 中太郎
(C)Chutaro.Nakaochiai
本書は箱根駅伝のすぐれた解説書である−『駅伝がマラソンをダメにした』(光文社新書)by生島淳
<この表題は失敗だと思う。本書は駅伝の批判書ではない>
この本は箱根駅伝の手引書であり、すぐれた解説書である。200ページあまりの本書で箱根駅伝批判は20ページ余に過ぎない。
駅伝がマラソンをダメにした (光文社新書)
駅伝がマラソンをダメにした (光文社新書)



<どっかのプロ野球オーナーは彼に学べ―山梨学院大学>
山梨学院といえば、ケニア人留学生の爆発的な走りである。箱根を走る留学生はせいぜい1人か2人なので助っ人にすごいランナーを数人連れてきて走らせている、と中太郎は思っていた。ところが山梨学院は有望なケニアの少年をまず付属高校に入学させて強化する。同時に日本の生活になじむか見極める。高校の段階で日本になじめず帰国する青年もいるのだ。大学に入学する生徒は単に優秀なランナーであるだけでなく日本の風土習慣になじんだ若者なのだ。箱根を主催する会社の球団は山梨学院から学んでもらいたいものだ。

<ワセダの名物、中村監督>
本書によると、かつて世界の瀬古を育てた中村監督は伴走車の上で都の西北を歌って選手を激励し、他校の選手や監督を威嚇した。中村さんは戦時中、憲兵隊長でならし、戦後は闇市で財を成した。その財産を惜しげもなく選手強化につぎこんだ。明大野球部の島岡監督も投資でもうけて、野球部に私財をつぎこんだというがそういうオーナー監督というべき人がかつてはいたもんだ。瀬古さんは四日市工業時代に中村さんに見出されたがすでに中央への進学が決まっていた。中村さんの熱意にほだされ親御さんがわざわざ中央に頭を下げて早大受験に臨んだのに瀬古は不合格。じつは早大のスポーツ推薦は’83年からで瀬古さんはその恩恵に預かれなかった。有望選手も実力で入試を突破しなければならなかった。一浪して箱根に望んだ瀬古の走りは群を抜いていた。が、中村監督いわく、「瀬古がイカンガーやサラザールを相手にやるのとは全く違う」箱根駅伝なんて関東の学生の中で一番や二番を決めるだけ、だという。日本テレビの完全中継が始まる’87年より前の箱根に対するワセダの認識はこんなものであった。

<伸びる新興校に対する伝統校の強み―中央大学>
瀬古が袖にした中央大学だが選手の多くは法学部に在籍すると生島さんは書いている。中央大学の法学部といえば、司法試験合格者数を東大、京大、早稲田などと争う名門である。法曹界に多数のOBを持つ。選手は競技だけでなく学業でもトップクラスの環境で勉強できる。これは高校生ランナーや親たちにとって魅力であることはいうまでもない。教員の飽和状態から体育学部、教育学部で教員免許を得ても採用の門戸が狭くなった現在、中央大学がリクルーティングで成功するのはむべなるかなである。

<箱根の重要性にようやく気づいた伝統校>
ラグビーの大学選手権や箱根駅伝は受験生が願書を提出する直前に行われる。その重大さに気づいたのは大東文化大学や山梨学院などの新興校であった。80年代後半、大東文化大学はラトウなどトンガの留学生が活躍して大学ラグビーの王座に君臨したがそれ以前から箱根では活躍していた。それらの活躍が入学志願者増に大きく寄与したのだ。生島さんの母校早稲田などは黙っていても志願者は集まるのでラグビーや駅伝で活躍しようがしまいが関係ないというのが大学当局の見解だった。箱根駅伝草創の参加校明治などはラグビー、野球は強化種目であったが駅伝には全く無関心であった。しかし視聴率が30%に届く大イベントを無視できなくなった。平成17年より本気で強化に転じた。今年の参加校では青山学院もその一つだろう。甲子園球場には関西の大学の広告が増えた。阪神ファン目当てではなく甲子園大会を見る全国の高校生に向けてのPRなのだという。

<駅伝はマラソンをダメにしたか?>
勿論、論旨は明快である。日本の男子マラソン不振の一因は駅伝である、と生島さんは述べている。しかし、彼は駅伝を愛しているし、オリンピックのマラソンで勝つことだけがランナーの目的でないと彼は言っているのである。が、マラソンは駅伝の延長でなく駅伝で勝つことが世界に通用するマラソンランナーを育てる助けにはなっていない、むしろ害があるという。
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| 中落合中太郎 | 生島淳 | 07:24 | comments(0) | - | pookmark |
日本ジャンプ陣の壊滅と駒大苫小牧甲子園優勝の原因は北海道経済の衰退―『アマチュアスポーツも金次第』(朝日新書)by生島淳
<相次ぐ企業のスポーツ界からの撤退>
北京オリンピックの興奮はどこへやら、日本のスポーツ界は世界同時不況の波をもろに受けた。日産はサッカーの横浜Fマリノスへの出資を大幅に減らすことを発表。中村俊輔復帰の夢は消えた。アイスホッケーの名門西武が廃部。アジアリーグは存続の危機だ。アメフトのオンワードが廃部。企業のスポーツからも撤退は今後減る事はないだろう。昨年までの輸出景気のなかでも休止、廃部を決めた企業スポーツは多かったのだから。16年開催を目指して東京オリンピック誘致も影響は避けられない。ライバルのシカゴもダメージはあるだろうが企業への依存度の高い日本の方がつらい。

アマチュアスポーツも金次第 (朝日新書 45) (朝日新書)
アマチュアスポーツも金次第 (朝日新書 45) (朝日新書)
生島 淳
<マー君の駒大苫小牧甲子園優勝は北海道経済衰退が原因>
本書は、今年の不況のかけらほどのきざしもない2007年に出版された。したがって、スポーツ界の冬の始まりについては触れていない。しかし、その将来を予感させる北海道経済とスポーツの関係が書かれている。今、ジャンプのテレビ中継はあるのだろうか?長野の前くらいまではシーズンにはNHK杯、HTB杯、STV杯などテレビ中継が毎週あり、大倉山のシャンツェを何度も見た。選手の名前と企業名が連呼された。たくぎん、雪印乳業は知っている。地崎工業ってなに?みんな北海道の地場産業である。たくぎんは破綻。雪印はあの中毒事件で大打撃。廃部になった雪印のアイスホッケー部はもともと北海道の岩倉組のものだった。アイスホッケーといえば廃部になった西武鉄道とコクド(国土計画)と日本リーグの覇権を争ったのは苫小牧の王子製紙と釧路の日本製紙(十条製紙)だった。ところで本書にあるように駒大苫小牧高校が優勝した理由は実は北海道経済の不況だ。苫小牧はアイスホッケーが盛んだ。マー君は関西からの野球留学生だがそのほかの選手はみな道産子である。本来なら、アイスホッケーをやっているのが普通だ。しかし、アイスホッケーはスティックやらプロテクターやらヘルメットやら金がべらぼうにかかる。しかも、それらは重くてかさばる。野球少年のようにグラブとバットを担いで学校のグランドで練習というわけにはいかない。離れたリンクまで車の送り迎えが不可欠だ。ところが不況になり、まず親は金が出せなくなった。送り迎えしていた母親もパートに出なければならない。じゃあお前ら野球をやれ、というので本来、アイスホッケーをしていたはずの身体能力の一番優れた子が野球を選ぶようになったというのだ。日本ハムの札幌移転の成功も案外それかもしれない。
ジャンプも同じだ。札幌の日の丸飛行隊、長野オリンピックの奇蹟の優勝を担ったのはたくぎんなど北海道の企業である。それらの衰退が日本のウィンタースポーツの活力を奪った。今、ウィンタースポーツといえば、北海道に依存しないフィギュアスケートである。
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| 中落合中太郎 | 生島淳 | 07:47 | comments(0) | - | pookmark |
「2区から1区にかわること、それは格下げなんです」−『監督と大学駅伝』(日刊スポーツ出版社)by生島淳
<箱根で好成績を残すと大学の受験料による収入は10億円単位のビジネス単位となる>
 著者の生島淳さんは元TBSアナウンサーで現在もラジオなどで活躍中の生島ヒロシさんの実弟である。ヒロシさんはタレントだけでなくファイナンシャルプランナーとしての横顔を持つ。弟の淳さんもスポーツジャーナリストとしての地位を不動のものとしているが、その切り口には兄譲りのマーケティングや経営感覚が垣間見える。本書によると1987年の日本テレビによる完全中継開始によって箱根駅伝が単なるスポーツの大イベントから大学の経営上の重大要素に変わったという。そのひとつとして出場校はユニフォームに必ず校名を漢字フルネームでいれる。アルファベットのWの一文字という早稲田のような例は少数派である。1月というのは、高校生が願書を出す大学を最終決定する時期に重なる。箱根で学校名が連呼され、活躍が映し出されれば書店でその大学の願書を手にする気になる生徒も多いと思う。新興大学であれば「そんな学校あったか」とか「意外とあの大学は有名だったんだ」と再認識したり「箱根で活躍したんだ」と「そんな学校しらん」と渋る親を説得する材料にもなると思う。そしてこの章の表題の通り、願書の売り上げに箱根への出場、そして活躍が直結するのである。

<山梨学院大学と箱根>
本書には、7人の箱根常連校の監督、監督経験者のインタビューが載っている。山梨学院大学といえば、アフリカ人留学生が活躍する押しも押されもしない駅伝の名門校である。しかし中太郎のようなオジサンが学生の頃は「山梨にもそういう学校があるだろうさ」という程度の認識だった。山梨学院が箱根に初出場したのはまさにテレビ中継元年の'87年で'92年に初優勝、’94年には総合優勝を成し遂げる。そこにはアメリカの大学のような美しく大きなグランドを提供し、選手のリクルーティングなどを全力でバックアップしてくれた大学当局の協力がある。いわば山梨学院が新興大学の箱根を使ったマーケティングのモデルケースになり、そのために同学のリクルーティングが難しくなってきたという皮肉な結果も引き起こす。
<留学生が走ること>
留学生が走ることが日本人のチャンスを奪うことになる、という批判に対して身体能力がはるかにまさるアフリカ人と走ることで世界のレベルを認識し切磋琢磨できるという利点を著者は指摘する。オツオリ(故人)やマヤカなどケニア人留学生を受け入れ、指導者に育てた山梨学院の箱根そして日本陸上界への貢献を早稲田の渡辺監督が語っている。
<テレビ中継と途中棄権>
大東文化大学の青葉元監督の項ではテレビ中継のせいで選手の途中棄権が増えたという指摘がある。12月の10日前後に選手に箱根出場の内示がある。選手は恩師や両親、ガールフレンドへの年賀状にそれを書く。その後、故障したり調子が落ちても選手は出場したいので監督にそれを隠す、というのだ。それを見破るのが監督というものだろう、との指摘には出場直前は練習が軽くなるのでいつもより選手の調子を判断するのが困難になるという他の監督の話もある。たすきをつなぐというチームメイトや母校への責任感に加えて、自分を支えてくれた先生や家族とのしがらみも途中棄権につながるというのは如何にも日本的だと私は感じた。
監督と大学駅伝
監督と大学駅伝
生島 淳



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| 中落合中太郎 | 生島淳 | 16:43 | comments(0) | - | pookmark |
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