食べ物と汽車が好きな人のための書評

名作の中の食べ物、作家が好きな食べ物と旅を追って、本の森を歩こう

中落合 中太郎
(C)Chutaro.Nakaochiai
カレーライスは箸で?―『政治と秋刀魚』 ジェラルド・カーティス
いま話題になっているフレディマックとファニーメイというふたり。じゃなくて、連邦住宅貸付抵当公社と連邦住宅抵当公庫が危ないらしい。そして、サブプライムの話に続いて、どうもここの債券を日本の金融機関が「米国債に準ずる安全な債券」とばかりに大量に買っていてかなりヤバイらしい、といっても中太郎にはよくわからないので考えない。しかし、住宅なんとか抵当公社やらがなぜ、葉っぱのフレディで連邦ナントカ公庫がファニーなメイちゃんなのか気になる。NPR(National Public Radio)というアメリカの公共放送を進駐軍ラジオ(AFN)が2時間だけネットしてるのだがその番組の中で、The Federal Home Loan Mortgage Corpの頭文字FHLMCを取ってフルマク、フェルマック、フレディマックに聞こえるでしょってんでFreddie Macに。 The Federal National Mortgage Associationの頭文字をとってFNMAをフヌマ、フェヌマ、ファニマ、ファニメー、ファニーメイとなって Fannie Maeにしたんだと、いってた。ほんまかいな?

政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年
政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年
ジェラルド・カーティス
『政治と秋刀魚』というタイトルでなければ、この作品を中太郎がとりあげることもなく、ジェラルド・カーティスという日本語の達者なアイビーリーグの大学教授に注目することもなかった。日本語の達者な外国の学者というとドナルド・キーンさん。戦争直後の占領軍の一員として初来日。その後、日本研究者として再来日し京都に住んだ。現在は駒込の六義園の近くに家を持ち、大部分を東京で暮らしておられるらしい。キーンさんは駒込駅でチラシを配っている居酒屋の青年が不満だ。「彼は私にはチラシをくれない。外人だから読めない、と思っているんですよ。でも、私が毎日ここを通るのを彼は見てるんですよ」というようなことをテレビでいっておられた。

西荻 天徳湯

さて、カーティス青年の最初の棲家は昭和39年(1964)の西荻窪の4畳半風呂なし、共同便所の木造アパートであった。銭湯で商店街の旦那衆と付き合い、食事は近所の定食屋。
焼き魚、ほうれん草のお浸し、味噌汁、お新香とご飯があれば幸せだ。と教授は書いている。1年間、定食屋のマスター(教授はそういっている)に勧められるまま秋刀魚や鯖を食べているうちにアメリカで肉中心だった食生活はすっかり魚と野菜中心にかわった。ある日、ナスを食べてそのおいしさに驚く。カーティス教授の日本食礼賛は続く。いくつか最初の章から抜粋する。
トンカツを初めて食べたときは感動した。キャベツにソースをかけるのが好きで、キャベツは大体食べ放題だったから、必ずお替りをした。
中太郎は少しアメリカで遊んでいたことがある。キャベツを生で食べたのはコールスローくらいで大体は火を通した料理だった。
エビフライを食べて残ったタルタルソースをご飯にかけて食べると美味いと思うし、カニコロッケの味も日本以外では味わえない絶品だ。
エビフライはアメリカにもある。レッドロブスターみたいなシーフードのチェーンで手ごろな値段で食べられる。が、サクサクのカニコロッケ、シャキシャキのたまねぎが入ったタルタルソースというわけにはいかない。それが日本では西荻あたりのトンカツ屋や洋食屋で学生が出せる金でいつでも食べられる。

カーティス青年は、西荻に住み着く前、東京でカレーのおいしい店を紹介してもらって早速、出かけた。ボーイさんは彼の前にカレーの皿とフォークとスプーンを置いた。カーティス青年はボーイさんに
「外人だから箸が使えないだろう」と思われていると勘違いして、
「お箸をください」
とボーイさんに頼んだ。

彼は必死で箸でカレーを食べようともがいた。周りの日本人を見ると誰も箸でカレーを食べているものはいない。彼は真っ赤になった。そして大急ぎでスプーンでカレーを片付けて大急ぎで店を出た。

大分県の教員汚職事件と本書
勿論、この本はアメリカ人政治学者のグルメ本ではない。この本を読めば佐藤首相以来誕生した20人の総理大臣のうち19人に会ったというカーティス教授の日本政治研究の端緒となった地が今、教員試験の口利きと贈賄で揺れる大分県であった、ことがわかる。カーティス青年は西荻での1年間の滞日を終えコロンビア大学大学院に帰るが、66年再び来日する。博士論文のテーマとして日本の選挙を調査研究するためである。そのため当時の大分2区から代議士を目指して運動中の佐藤文生氏の選挙運動に密着した。佐藤氏の自宅に住み込み佐藤氏と共に支持者と献酬もした。別府の温泉旅館に集まった町会議員はじめ20数人の世話役を前に佐藤さんが言う、
「俺のあとについて、おなじようにしてくれ」
と言い、ひざをすべらすようにしてある世話人の前に行き、彼が飲み干した猪口を受け取った。そこに酒をついでもらい、飲んだら返してお酒を注いで次の人の前に移る。両手で猪口をいただくときには毎回毎回、
「お流れを頂戴します」
と言いながら頭を下げる。

 カーティス青年は佐藤候補について同じように「お流れを頂戴します」とお酒を注いでまわったのである。彼は酒が回りすぎてふらふらになってしまうのだが、それが「根性のあるやつだ」という評価になり世話役の信頼を勝ち得た。カーティス氏はこうして1年間、佐藤候補の選挙運動に密着する。カーティスさんは耶馬溪町に行って佐藤さんを支持する町会議員と田舎道をあるいていると支持者に会った。町会議員は、
「今度、選挙がある。文ちゃんを頼むよ」と声をかけた。すると支持者の答えは、
「もちろん、あなたに大変お世話になっているから佐藤に投票する」要するに佐藤さんが好きか嫌いかは投票行動と関係がない。この町会議員にお世話になっているから佐藤さんに投票する、というのである。
豊後高田市の県会議員を訪問したときも、県議の支持者は県議に世話になっているから県議の推す佐藤氏に投票する、と答える。県議はむしろ支持者に佐藤さんを会わせたくない、という。佐藤さんが直接、支持を頼めば彼の存在意義がうすれるからだ。3000票ほしければ、それに見合うお金を県議にわたせば県議はその票をまとめてあげる。

カーティスさんは書く。
そのお金をいわゆる「買収」に使うとは言い切れない。日本では「お礼」が重視される。その伝統的な価値観と明白な買収のあいまいな境を上手に行き来するのが票をまとめる秘訣であった。
国東半島の支持者を訪れたとき、その「哲学」をカーティスさんは聞く。
(対立候補の)「西村陣営」の人にしたらそれこそ買収でしかないが「佐藤陣営」の人に渡すのは、佐藤に投票してくれる人に対する「お礼」である。 

これは1966年から1年間の衆議院議員選挙運動の話であって、現在の大分県ではない。このような運動が通じなくなったから、自民党は先の参議院選挙で大敗北したのだ、というようなことをカーティス氏も書いている。しかし、これに似た話は大分だけではなく全国いたるところにある。だから、本書とは離れるが、このような風土がまだ、残っているのだろうし、大分の教育界で起きた事は全国に大なり小なりあるであろう、と中太郎は思う。

こうしてカーティスさんは佐藤文生候補の初当選を見届けて、再び、西荻窪の下宿にもどってくる。真夏の暑い四畳半でタイプライターに向かって論文を書き上げた。これが『代議士の誕生』(サイマル出版会)となって日本で発売された。

ところで『票田のトラクター』というコミックをご存知だろうか?票田のトラクター 1 (1) (ビッグコミックス)
票田のトラクター 1 (1) (ビッグコミックス)
前川 つかさ

竹下登さんや中曽根さん、宮沢喜一さんのそっくりさんが出てくる自民党が元気な頃の政界を舞台にしたコミックだ。カーティスさんの本と重なる話が多い。たとえばカーティス青年が温泉の男湯でくつろいでいると風雪会という佐藤さんの後援団体の婦人部の女性がどんどん裸で入ってきてカーティスさんがぶったまげる、話などである。前川つかささんはカーティスさんの『代議士の誕生』を読んでいたのか、それともどこの代議士の婦人部もこうしてスタッフの青年をかわいがったのか、興味は尽きない。

議員さんの悩みは日米似たようなもの
カーティス教授は日米の議員交流にも永年かかわってきた。日米交流の会議の席でアメリカの議員が熱心に何か書いていた。メモをとっているのかと教授が近づいて見ると、なんと選挙区の支持者宛にせっせと絵葉書を書いていた、そうである。アメリカの議員も日本の議員も地元の陳情にどうしたら答えられるか、選挙資金を得られるか、悩む事は同じだという。そして、お互い政策の話より選挙運動の苦労話に熱がはいり、共感を覚えるのだ、と書いている。


現在の日本の政治そして日米関係についてもヨーロッパとの比較や戦前の政治状況と比較して分析している。日本では今、公務員の定員を減らしてスリムにしようとしているが本書では欧米に比較して日本の国民1000人あたりの公務員の数はむしろ少ない、と述べている。一方、日本人の奥様とのなれそめや日本の英語教育の問題点など外国人の日本人観という読み方でも楽しめる一冊である。

最後にカーティス教授は本書を日本語で書き下ろした、と書いておられる。会話や講演は日本語で行う外国人も著述は翻訳者を通す場合が多い。一読すればカーティス先生の日本語力に舌を巻くことうけあいである。
| 中落合中太郎 | ジェラルド・カーチス | 17:27 | comments(0) | - | pookmark |
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