食べ物と汽車が好きな人のための書評

名作の中の食べ物、作家が好きな食べ物と旅を追って、本の森を歩こう

中落合 中太郎
(C)Chutaro.Nakaochiai
忘れえぬ食い物-忘れえぬ人々=チュルチュルじゃがいも
 落語では、噺つまり落語の本題−「たらちね」とか「時そば」とか−に入る前に折に触れての雑談のようなものをしてから噺に入る。これを枕といいますが、中太郎のブログは全部この枕みたいなもんでして、本題はありません。しいていえば「書評」が本題、一応、「書評」と名乗っている以上、これが本題かな?と思っております。それで今日は書評はやりません、というとちょっとまずいので最初に書評をチョコチョコとやって枕を長々とやる、という趣向に致します。
 「忘れえぬ人々」というのは「武蔵野」で有名な国木田独歩の短編で、かいつまんでいうと主人公の東京の青年が川崎の溝の口の宿屋に泊まって…。明治時代の話ですよ。たまたま隣室に泊まった男とこれまでに会った、或いは見た忘れられない人々について語り合う、という筋であります。その話の中で主人公が忘れられないのは瀬戸内海を船で航行していて、甲板から名もない島を見ていた。その島の砂浜で打ち上げられたワカメかなにか海草をひたすら拾っている人を見た。それが忘れられない、というようなことを語るわけです。忘れられない、とは著名人であるとか、いろいろと教えを受けたとか、さんざん語り合ったとかそういうこと、そういう人ではないんだ、というようなことをつづった話で、まあ、これ自体、どうっていう作品でもないんですが、私には忘れえぬ作品です。いつもは作品を手元に置いてこのブログを書くのですが、今回は私の記憶の世界だけで書いています。
源おじ・忘れえぬ人々 (1967年)

 まだ、食べ物も汽車も出てこないのでありますが、これから「忘れえぬ食べ物」の話をやります。4,5日前にかみさんに
「俺もあっちこっち海外に行ったが実を言うと『もういちどあの場所に行ってあれを喰いたい』という物はないな。国内ではある。一つは小金井のクーニャン菜館の春雨。同じ名の店があるが主人が変わってしまってもう喰えない。亀戸の駅ビルの雅の家の焼きそば定食、これはつぶれた。新大阪駅の中の立ち食いうどん、これは去年やっと再会した。やはり、うまかった。しかし、ウィーンでもニューヨークでもインドでも、『これはうまい』とか『ここでこんなものが喰えたかー』という感激はあったが、もう一度行って喰いたいとは思わない。不幸なことだ」
するとかみさんは珍しい動物でも発見したような顔をして、
「そういうことを考えるんだ。あたしはあんたより外国にいってるけどそんな事を思ったことは一度もない」
 、と今度は中太郎がびっくりしました。まあ、夫婦なんていうのは気があったから一緒になったと思ってるんですが実は異星人同士なんでしょうなあ。
 かみさんはさておき、さっき挙げたのも別に著名な食い物でも高価でもない。ただ、用もないのに立ち食いうどんのために大阪に行くような…、内田百寮萓犬覆蕕笋襪任靴腓Δ、私にはそういう酔狂も金もないので、大阪で研修会があったので14,5年ぶりにうどんを食べたんですが…。
 海外といえば…。実は一つありました。それは「チュルチュルのじゃがいも」です。これは私が勝手にそういってるだけで本当はなんていうのかわかりません。わからないから困ってるんです。アメリカで食べたんですよ。食べたいんですよ。「じゃがいもくらい日本でも食べられるだろ」、と思うでしょ。私もそう思ったんですよ。でも、ないんですよ。同じものが。別に手の込んだ料理ではありません。じゃがいもを塩茹でにしたあつあつのもの、ただそれだけ。あつあつじゃなくてもいいですが…。アメリカじゃよく肉料理の付け合せにベークドポテトとかマッシュポテトとか食わされるでしょ。彼らはジャガイモ好きだと思いますよ。ハンバーガー買うと「ポテトもいかがですか」と聞かれるでしょ?あれは「ポテトを食わない者は合衆国国民にあらず」という深い意味があると思います。日本では単なるセールストークですけど本国ではあの言葉は魂のある言葉なんですよ。ただ、アメリカでそれをいわれた覚えがないんですけどね。英語で言われたからわかんなかったんでしょうね。これは覚えてます。「せぇだげん」
たぶん「Say it again!」て言ってるんでしょうね。必ず言われるんです。ビール頼んでも、ピザ頼んでも。「せぇだげん」情けなくなります。
 ああ、じゃがいもの話です。私が忘れられないのは小さくて皮の赤いジャガイモを皮のまんま塩茹でにしたもので、口に入れるとチュルチュルなんですよ。うまいんですよ。日本では新じゃががでると茹でたり蒸かしたりして団子くらいの小さなジャガイモを食べるでしょ。それは私の子供の頃はおやつだったりおかずだったりしましたよ。でもそれはホクホクしていて男爵いもみたいな食感でした。日本の人はホクホクが好きなんですかね?コロッケを作るのならホクホクですよね。アメリカではベイクドポテト。皮のまんまオーブンで焼いて、バタでもつけてホクホク食べる。ステーキの付けあわせならフォークでつぶしてグレービーをつけて食べる。私は醤油かけて食べましたね。レストランに醤油あるんですよ。結構。
 いっぺんね。ベイクドポテトを皮をむいて食べてたんです。そしたら遠くのテーブルにいた男がツカツカとやってきて、英語で言ったんです。アメリカですから英語ですはね。
「これは皮を付けて食べろ。皮に栄養があるし、うまいんだ」
 まあ、こんなようなことをね「この無知な東洋人に教えてやるんだ」という調子でね、わかりませんよ。ほんとは。でも、そういうんですよ。知ってますよ〜。私もね。日本のベイクドポテト。倶知安の男爵だったら皮ごと喰いますよ。でもね、この地域の人からね。言われてたんです。
「ここらの百姓は農薬をしこたま使うので誰も水道水を飲みやしねぇ」
 ってね。だから皮むいたんです。でも、その兄ちゃんがお百姓だったら角が立つでしょ。その頃の私の英語力で相手を怒らせないようにこの話をする自信はないし−今もないですから、黙ってました。この兄ちゃんは私の「忘れえぬ人々」ですね。
だけどこのチュルチュルのジャガイモは皮付きで食べました。農薬は忘れてました。その時は。美味いんですよ。皮が赤くて、小さくて。新じゃがだったのかな。アメリカにはnew potatoってのがあります。ほんとです。
それで日本に帰ってきて、しばらくは忘れてたんですが、サミットに赤いジャガイモがあったんです。「来たのかよ。お前。日本に」うれしくって買いました。塩茹でにして、口に入れて…。なーんか違う。ホクホクなんです。男爵風なんです。あれー。顔は同じだけど中身がちがう。がっくりしました。忘れていたんですけどなまじ似たものを見てしまったのでやたら気になりだしまして。昔好きだった女性とそっくりな人を街で見たら急に会いたくなった。こんな気持ちなんでしょうかね?
 チュルチュルなジャガイモじゃあ説明になりませんから、どういう品種なのか、日本にあるのか?アメリカ特有でも「チュルチュル」じゃあアメリカ人にわかりませんのでネットで調べました。まず、「全米ライフル協会」じゃない「全米ポテト協会」という団体の日本事務所のwebページを見ました。ところがこれは冷凍ポテトとか乾燥ポテトとか加工品の説明はあるけれど、品種の説明はない。そう品種です。男爵とかメークインとか品種には特徴がある。アメリカのポテトの品種をたどればチュルチュル君に会える。それで行き着いたのはアメリカやカナダの種苗会社のwebページです。種芋の品種です。ジャガイモの品種にはRed La Soda,Eramosa,Chieftainなどの品種名がありgood for bakingとかexcellent to boilingとか適した調理法も書いてある!そしてchiftainというのがboilingに適しているとわかった。だけどそれは赤くないし大きいんだよね。日本のじゃがいもについてのwebページでもぴったりしたものは発見できませんでした。日本にも「とうや」、「北あかり」などという品種が作られている事はわかったのですが普通のスーパーでは男爵、メイクイーンばっかりで残念ながらチュルチュル君には再会していません。やはり新じゃがの頃にアメリカに行くしかなさそうです。チュルチュルを英語でどう説明するか?男爵のようなホクホクでないというのはlow-starch potatoでんぷんの少ないジャガイモというわけです。チュルチュルですが moisture content and creamy texture 中身がしっとりしてクリームのようなきめを保っているじゃがいもってんですかね。中太郎はまだ機会がありませんが近々アメリカに行かれる方、是非このフレーズを覚えてチュルチュルの茹でジャガイモを味わってみてください。赤い皮のちっちゃいジャガイモです。でも多分5月とか新じゃがの頃じゃないとだめでしょうね。今日は書評はありません。すみません。
参考のwebページです。The cook's Thesaurusのpotatoes で検索してください。ジャガイモくんの写真もあります。
| 中落合中太郎 | 国木田独歩 | 20:17 | comments(0) | - | pookmark |
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